はじめに:なぜ今、民法が改正されるのか
2026年(令和8年)4月1日、日本の家族法に関する大きな転換点が訪れます。父母の離婚後の子の養育に関する民法等の改正法が施行されるのです。
この改正は、単なる制度の変更ではありません。「こどもの利益を最優先に考える」という明確な理念のもと、離婚後も両親が適切に子育てに関わることができる社会を目指すものです。
行政書士として離婚や相続のご相談に携わる中で、この改正のポイントを、できるだけわかりやすく解説いたします。
共同親権制度の導入:選択肢が広がる意味とは
これまでの「単独親権」の問題点
日本では、離婚後は父母のどちらか一方のみが親権を持つ「単独親権」制度が採用されてきました。多くの先進国では共同親権が採用されており、日本は単独親権制度を維持してきた数少ない国の一つでした
単独親権制度には、以下のような課題がありました:
- 親権を持たない親が子育てから疎外されがち
- 養育費の支払率が低い(約2〜3割程度と低い水準にとどまっています)
- 親権争いが激化し、子どもの奪い合いにつながる
- 離婚後に子どもと会えない親が増加
2026年4月からは「共同親権」も選択可能に
改正後は、離婚後も父母双方が親権者となる「共同親権」を選択できるようになります。
重要なポイント:
- 共同親権か単独親権かは、ケースバイケースで決める
- 「父母が協力できない事情がある場合は単独親権としなければならない」という原則があります。
- あくまで「こどもの利益」を最優先に判断する
共同親権が認められないケース
以下の場合、原則として単独親権が選択される可能性が高いです:
- 虐待のおそれがある場合
- 身体的虐待だけでなく、心理的虐待も含む
- DVのおそれがある場合
- 配偶者への暴力があった場合
- 精神的DVも含まれる
- 父母が共同して親権を行うことが困難な場合
- コミュニケーションが取れない
- 意見が対立し続け、子どもの利益を害する
共同親権のメリット・デメリット
メリット:
- 両親ともに子育てに責任を持ち続けられる
- 子どもが両方の親との関係を維持しやすい
- 重要な決定に両親が関われる
- 養育費の支払い意識が高まる可能性
デメリット・注意点:
- 重要事項の決定に時間がかかる可能性
- 父母間の対立が続く場合、子どもに悪影響
- 緊急時の対応が遅れる可能性
親権の行使方法:日常と重要事項の区別
共同親権の場合でも、すべてを二人で決める必要はありません。
単独で決められること(日常的な行為):
- 食事や服装の決定
- 短期間の旅行
- 習い事の選択
- 通常のワクチン接種
- 高校生のアルバイトの許可
共同で決めるべきこと(重要な決定):
- 子どもの転居
- 進学先の決定(高校進学か就職かなど)
- 重大な医療行為
- 財産管理(口座開設など)
緊急時の単独判断が可能:
- DVや虐待からの避難
- 緊急の医療行為
- 入学手続きの期限が迫っている場合
法定養育費制度:取り決めがなくても請求可能に
これまでの養育費の問題点
養育費は、子どもが健やかに成長するために不可欠です。しかし、日本の養育費受給率は約24%と、先進国の中でも低い水準でした。
主な理由:
- 離婚時に養育費の取り決めをしないケースが多い
- 取り決めても支払われないケースが多い
- 取り決めがないと請求できなかった
「法定養育費」が新設
2026年4月以降に離婚する場合、一定の場合には、養育費の取り決めがなくても請求できる仕組み(法定養育費制度)が導入されます。具体的な金額や運用については、今後の制度設計や個別事情により判断されます。
法定養育費の特徴:
- 離婚日から自動的に発生
- 取り決めをするまでの暫定的な制度
- 毎月末に支払い義務
- 子どもが18歳に達するまで
法定養育費が終了するタイミング:
- 父母が養育費の額を取り決めた日
- 家庭裁判所の審判が確定した日
- 子どもが18歳に達した日
いずれか早い日まで発生します。
養育費の先取特権:支払いの実効性が向上
これまで、養育費の取り決めをしても、支払われない場合に差し押さえをするには「公正証書」や「調停調書」などの債務名義が必要でした。
改正後は、養育費に「先取特権」が付与されるため、父母間で作成した文書(離婚協議書など)に基づいて、一定の場合には、従来よりも簡易に強制執行の手続きが可能になります。
先取特権の範囲:
- 一定の範囲の養育費について、裁判を経ずに差し押さえの手続きが可能になります
- 施行前の取り決めでも、施行後に発生する養育費に適用
支払能力が低い場合の対応
収入が乏しく支払能力が著しく低い場合には、減額や免除が認められる可能性があります。
拒否できる条件:
- 支払能力を欠くことを証明
- 支払うと自分の生活が著しく窮迫する
- 例:生活保護を受給している場合
ただし、このような場合でも、父母で話し合い、収入に応じた適切な額を取り決めることが望ましいです。
親子交流制度:安全・安心な面会の実現
「面会交流」から「親子交流」へ
これまで「面会交流」と呼ばれていた制度が、「親子交流」という名称に変わります。これは単なる名称変更ではなく、「子どもの権利」としての位置づけを明確にする意図があります。
試行的実施制度の新設
家庭裁判所の調停や審判の手続き中に、親子交流を試行的に実施できる制度が設けられました。
試行的実施の流れ:
- 家庭裁判所が試行の必要性を検討
- 当事者に試行的実施を促す
- 実施の条件(日時・場所・方法)を決定
- 試行的に親子交流を実施
- 家庭裁判所調査官が調査・報告
- 結果を踏まえて本格的な取り決めへ
この制度により、実際にやってみてから適切な親子交流の形を決められるため、より子どもに寄り添った取り決めが可能になります。
婚姻中の別居でも親子交流が可能
これまで規定がなかった「婚姻中の別居」の場合の親子交流についても、ルールが明確化されました。
離婚前であっても、子どもと別居している親は、協議や家庭裁判所の手続きにより、親子交流の取り決めができます。
祖父母など親族との交流
子どもの利益のため特に必要がある場合、祖父母など父母以外の親族との交流も、家庭裁判所が認めることができるようになりました。
既に離婚している方への影響
自動的に共同親権にはならない
重要:施行前に離婚して単独親権の定めをしている場合、施行後も自動的に共同親権に変更されることはありません。
親権変更の申立ては可能
ただし、施行後に家庭裁判所に申し立てることで、単独親権から共同親権(またはその逆)に変更することは可能です。
変更が認められにくいケース:
- 養育費の支払いを長期間怠っている
- 虐待やDVのおそれがある
- 父母が共同して親権を行うことが困難
法定養育費は適用されない
法定養育費制度は、施行後(2026年4月1日以降)に離婚した場合のみ適用されます。
施行前に離婚している場合は、従来どおり、協議や家庭裁判所の手続きで養育費を取り決める必要があります。
先取特権は一部適用
施行前に養育費の取り決めをしていた場合でも、施行後に発生する養育費については先取特権が付与されます。
行政書士ができるサポート
離婚協議書の作成
父母の協議で離婚する場合(協議離婚)、行政書士が離婚協議書の作成をサポートできます。
離婚協議書に盛り込む内容:
- 親権者の定め(共同か単独か)
- 監護者の指定
- 養育費の額と支払方法
- 親子交流の具体的な方法
- 財産分与
- 慰謝料
- 年金分割
公正証書化のサポート
離婚協議書を公正証書にすることで、法的効力が高まります。
公正証書のメリット:
- 強制執行が可能(債務名義となる)
- 紛失しても再発行可能
- 改ざんのリスクがない
- 証明力が高い
行政書士は、公正証書作成のための原案作成や、公証役場との調整、当日の立会いまでサポートいたします。
養育費に関する合意書作成
法定養育費ではなく、父母の収入や子どもの状況に応じた適切な養育費の額を取り決める際の合意書作成もお手伝いします。
養育費算定のポイント:
- 双方の年収
- 子どもの人数と年齢
- 教育方針(私立か公立か)
- 特別な医療費の必要性
裁判所の「養育費算定表」を基準にしながら、個別事情を考慮した適切な額を検討します。
親子交流に関する取り決め書作成
親子交流の具体的な方法について、トラブルを防ぐために詳細な取り決めをすることをお勧めします。
取り決めるべき内容:
- 頻度(月に何回など)
- 日時(第2・第4土曜日など)
- 時間(10時〜17時など)
- 場所(自宅、公園、施設など)
- 宿泊の可否
- 長期休暇中の取り扱い
- 連絡方法
- 費用負担
相談・カウンセリング
離婚は人生の大きな決断です。法的な手続きだけでなく、心理的なサポートも必要です。
行政書士は、法律の専門家として、また身近な相談相手として、お客様に寄り添ったサポートを提供いたします。
相談先・支援制度
公的な相談窓口
DV相談ナビ:#8008(はれれば)
- 24時間対応
- 最寄りの相談機関を案内
児童相談所虐待対応ダイヤル:189(いちはやく)
- 24時間対応
- 虐待の相談・通告
養育費・親子交流相談支援センター
- 養育費の取り決めに関する相談
- 親子交流の方法についての相談
- 無料で利用可能
母子家庭等就業・自立支援センター
- ひとり親の就業支援
- 生活相談
- 法律相談
法律専門家への相談
弁護士
- 裁判手続きが必要な場合
- 相手方との交渉が困難な場合
- DVや虐待があり安全確保が必要な場合
行政書士
- 協議離婚の場合の書類作成
- 離婚協議書、公正証書の作成
- 養育費・親子交流の取り決めサポート
- 比較的低コストで利用可能
司法書士
- 少額の金銭トラブル(140万円以下)
- 書類作成のサポート
ADR(裁判外紛争解決手続)
裁判所を利用せず、中立的な第三者が間に入って話し合いをサポートする制度です。
メリット:
- 柔軟な解決が可能
- 費用が比較的安い
- 非公開で進められる
- 短期間で解決できる
よくある質問(FAQ)
Q1:共同親権にすると、毎回相手の許可が必要ですか?
A1:いいえ。日常的な行為(食事、服装、習い事など)は単独で決定できます。重要な決定(転居、進学先など)のみ、共同で決める必要があります。
Q2:すでに離婚していますが、養育費を増額できますか?
A2:可能です。子どもの成長に伴う教育費の増加や、双方の収入の変化があれば、養育費の増額(または減額)を求めることができます。
Q3:親子交流を拒否したらどうなりますか?
A3:正当な理由なく、取り決めた親子交流を拒否し続けると、損害賠償請求や親権者変更の理由となる可能性があります。ただし、子どもの安全や心身の健康のために必要な場合は、拒否が正当化されます。
Q4:行政書士と弁護士、どちらに相談すべきですか?
A4:協議離婚で、お二人で話し合いができる状況であれば、行政書士で十分です。費用も抑えられます。一方、相手が話し合いに応じない、裁判が必要、DVがあるなどの場合は弁護士への相談をお勧めします。
Q5:離婚協議書を公正証書にする費用はいくらですか?
A5:公証役場の手数料は、養育費や財産分与の額によって変わりますが、概ね2〜5万円程度です。行政書士への報酬は別途必要ですが、トータルで10〜15万円程度が一般的です。
まとめ:子どもの未来のために
2026年4月の民法改正は、日本の家族法における歴史的な転換点です。
この改正の根底にあるのは、「こどもの利益を最優先する」という理念です。
離婚は、夫婦の関係の終わりではありますが、親子の関係は続きます。お二人の関係がどうであれ、お子さんにとっては、両方がかけがえのない親です。
大切にしていただきたいこと
- 子どもの声に耳を傾ける
- 子どもの年齢に応じて、意見を聞く
- 無理強いはしない
- 子どもの心のケアを最優先に
- 感情ではなく、子どもの利益で判断する
- 相手への怒りや恨みで決めない
- 「子どもにとって何がベストか」を考える
- 長期的な視点を持つ
- 専門家の力を借りる
- 一人で抱え込まない
- 法律の専門家に相談する
- 公的支援制度を活用する
- 取り決めは明確に、文書に残す
- 口約束だけでは不十分
- 曖昧な表現は避ける
- 公正証書化を検討する
参考情報・お問い合わせ先
法務省 民法改正特設ページ
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
ひとり親家庭のためのポータルサイト
https://support-hitorioya.cfa.go.jp/revision/
養育費・親子交流相談支援センター
電話:0120-965-419
日本行政書士会連合会
全国の行政書士を検索できます
https://www.gyosei.or.jp/
この記事が、離婚を考えている方、すでに離婚された方、そしてこれからの日本の子育てを考えるすべての方にとって、有益な情報となれば幸いです。
何かご不明な点がございましたら、お近くの行政書士にお気軽にご相談ください。
【関連キーワード】
民法改正 2026年4月 / 共同親権 メリット デメリット / 法定養育費 月額2万円 / 養育費 先取特権 / 親子交流 試行的実施 / 離婚協議書 作成 / 行政書士 離婚 / 養育費 算定 / 単独親権 共同親権 違い / 離婚後 子育て / 面会交流 親子交流 / 公正証書 養育費 / DV 虐待 親権 / 子どもの利益 最優先 / 協議離婚 手続き


