厚生労働省は、障害者の安定した就労を支える専門人材の育成と確保を目的に、「障害者就労支援士」資格の導入を検討しています。本提案は、障害者の職業生活を支える仕組みをより効果的かつ体系的にすることを目指しており、ジョブコーチを含む就労支援者のスキル向上を支援し、雇用と福祉の連携強化を図ります。
背景と問題点
障害者の雇用促進に向けた取り組みが進められているものの、依然として障害者が安定して働き続けることが難しい現状があります。この背景には、職場での支援不足や、障害者本人が必要なスキルを習得する機会が限られていることが指摘されています。また、雇用施策と福祉施策の連携が十分ではなく、各施策の枠を超えた統合的な支援体制が求められています。厚生労働省は、雇用と福祉をつなぐ就労支援人材の専門性向上が不可欠だと考えています。2020年には社会保障や働き方改革に関連する議論の中で、障害者の希望や能力に応じたシームレスな支援体制を構築する方針が打ち出されました。その結果、雇用・福祉双方の施策が一体となって支援する仕組みの強化が課題として浮上しています。
資格創設の目的
障害者就労支援士資格の導入は、以下の目的を持っています。
- 支援人材の専門性向上:障害者の職業適性や支援ニーズを的確に把握し、就労準備から職場定着まで一貫した支援ができる人材を育成します。
- 社会的認知度の向上:資格保有者の社会的・経済的地位を向上させ、企業による評価・処遇改善を促進します。
- 支援の質と量の確保:資格化により、支援人材の育成ルートを明確にし、就労支援サービスの質を高めます。
資格取得を通じて、障害者が安心して働き続けられる環境を整備することが期待されています。
資格の概要と対象者
資格は「障害者就労支援士検定(仮称)」として提案されています。この資格は、中級レベルから始まり、将来的に上級・初級の創設も検討されています。試験は学科試験を中心に行われ、障害者就労支援の実務経験が3年以上ある者、もしくは職場適応援助者研修を修了し、障害者就労支援に従事している者が受験可能です。
(試験科目のイメージ)
- 就労支援の理念・目的、障害者雇用の現状と障害者雇用・福祉施策
- 障害者雇用のプロセス(インテーク、職業準備性向上支援、求職活動支援、定着支援)
- 就労支援機関の役割と連携
- 障害特性と職業的課題(身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害、難病)
- 労働関係法規の基礎知識
- 企業に対する支援の基礎
- ケースマネジメントと職場定着のための生活支援・家族支援
- アセスメントの基礎など
資格を取得することで、就労支援全般に必要な知識・技能を身に付けることができます。試験は基礎的な研修カリキュラムに基づいて実施され、資格保有者が企業や福祉機関で支援活動を行う際の標準的なスキルを認定します。
研修と資格取得の流れ
資格取得には、基礎的な研修の受講が求められます。この研修は、障害者の職業準備支援や企業との調整を学ぶ内容で構成されています。さらに、実務経験を積んだ後、職場適応援助者研修などの高度な研修を受講することが推奨されます。
(研修体系は以下のように整理されています)
- 基礎的研修:雇用と福祉に関する知識を横断的に習得する初期段階の研修
- 専門研修:ジョブコーチなどの具体的な支援技術を学ぶ研修
- 上級研修:上級ジョブコーチとして、他の支援者への指導や地域連携を担うための研修
このような段階的な研修体系によって、支援人材のスキルアップを図り、地域ごとの障害者支援体制の強化を目指します。
資格化のメリット
資格化には、障害者就労支援の専門性を証明する「ものさし」としての役割があります。これにより、企業や支援機関での支援者の評価が高まり、賃金の向上やキャリアパスの明確化につながります。また、資格取得を目標にすることで、支援人材のスキルアップと人材確保が図られます。さらに、支援者のプレゼンスが向上し、企業や自治体との信頼関係が強化されることが期待されています。このようなことを通じて、障害者就労支援の体制を強化し、障害者雇用を促進する目的があります。
今後のロードマップと実施計画
資格制度の実現に向け、次のステップが計画されています。
- モデル試験基準の作成:厚生労働省が基準を策定し、民間検定としての運営を開始します。試験科目の設定やカリキュラム作成も含まれます。
- 業界団体による検定運営:資格の実施体制を整備し、民間検定として開始。実績を積みながら国家資格化を目指します。
- 検定の普及と運営:試験問題の作成・実施や運営ノウハウの蓄積を行い、受験者数の増加を図ります。民間検定が安定的に運営できるようになった段階で、国家資格化への移行が検討されます。
資格化のロードマップは、初年度の準備段階からスタートし、数年かけて全国的に展開する計画です。特に地域の障害者職業センターや就労支援機関との連携を強化しながら、効果的な支援体制の構築を目指します。
雇用と福祉の連携強化
資格化の実施にあたり、雇用施策と福祉施策の連携が重視されています。障害者の就労支援に携わる機関が協力し合い、地域ネットワークを活用して支援を行うことが推進されます。特に、ハローワークや地域障害者職業センター、就労継続支援事業所など、各機関の役割分担と連携強化が求められています。
将来の展望と課題
障害者就労支援士資格の導入は、支援者の質向上と障害者の雇用安定化に大きく貢献することが期待されています。一方で、資格の普及や社会的認知度向上には、行政や業界団体の協力が不可欠です。今後は、試験の基準作成や運営体制の整備、民間検定の実施を通じて、スムーズな資格導入が求められます。また、企業側の理解促進や、合理的配慮の提供など、現場での取り組みも引き続き重要です。資格化を通じて、障害者がより良い職業生活を送れるよう、包括的な支援体制の整備が目指されています。