第5次大阪府障がい者計画≪第3章:施策の推進方向ー第1節、第2節≫(2/4)

障害福祉

第1節:最重点施策

1.入所施設や精神科病院からの地域生活への移行の推進

 入所施設や精神科病院から地域生活への移行は、単に生活の場を変える支援ではなく、地域での生活づくりの支援が重要です。地域社会の一員として障がい者が豊かに暮らすため、関係機関が連携し、地域生活の具体的なイメージを体験を通じて示し、個々の状況や希望を把握しながら支援を進める必要があります。
 また、地域での生活を支えるために、グループホームや障がい福祉サービスを質・量ともに確保することが不可欠です。同時に、「8050問題」などの課題を解決し、障がい者とその家族が安心して暮らせる環境を整備することが求められます。
 大阪府では、地域生活への移行を最重点施策とし、地域全体で障がい者が希望する生活を支える社会の実現を目指しています。

2.障がい者の就労支援の強化

 障がい者が希望する職場で働き、収入を得て豊かな生活を送ることは、自立と社会参加にとって重要です。大阪府は障がい者の就労支援を福祉施策の重点に位置付け、希望に応じた就労環境の整備、職場定着、生活安定に向けた取り組みを強化しています。
 過去20年以上、大阪府は「行政の福祉化」に取り組み、住宅、教育、労働など各分野と連携し、障がい者の雇用や就労機会を創出してきました。今後も、障がい種別ごとのニーズに対応した職場環境の整備やサポートの充実を進め、一人ひとりに寄り添った支援を提供し、働く場の拡大や通勤・就業支援を強化することで、障がい者の生活の質の向上を目指します。

3.専門性の高い分野への支援の充実

 専門性の高い分野への支援を充実させるため、これまで十分な支援が行き届いていなかった高次脳機能障がいや発達障がい、医療的ケアを要する重症心身障がい、難病患者などへの重点的な取り組みを進めます。
 特に発達障がい児者に対しては、ライフステージに応じた切れ目のない支援を提供するため、「発達障がい児者支援プラン」を活用し、施策を一体的に推進します。また、障がい者の重度化や高齢化、「8050問題」など複合的な課題に対応するため、障がい福祉と高齢者福祉・介護、保健医療や教育などの関係機関との連携を強化していきます。
 さらに、これまで「施策の谷間」とされていた分野を「専門性の高い分野」と位置付け直し、改正法令を踏まえた支援施策を展開します。

第2節:共通場面に応じた施策の推進方向

1.めざすべき姿と現状の評価・課題

<めざすべき姿>
 多様な主体が協力し、全ての障がいのある人が安心して暮らせる地域を育んでいる

<現状の評価と課題>
 通信技術の発達や多様性を受け入れる風潮の広がりにより利便性が向上する一方で、地域のつながりが希薄化し、高齢化や孤立が進む中で「8050問題」や「親亡き後」の支援が行き届かず、障がい者や家族が将来に不安を抱えています。また、障がい者を巡る事件や自然災害が相次ぎ、地域での安全確保や差別の解消、基盤整備が喫緊の課題となっています。
 こうした状況の中、大阪府は障がいの有無に関わらず誰もが安心して暮らせる地域を目指し、市町村や事業所、当事者、府民と連携して課題解決に取り組んでいます。地域住民が主体となり、地域資源を活用した支援体制を構築し、「全ての人が支え合い、包容され、ともに生きる社会」の実現を目指しています。このため、障がい者が誇りと尊厳を持ち地域の一員として生きることができる社会づくりに向けた長期的な取り組みを進めていきます。

2.個別分野ごとの施策の方向性

(1) 障がい者虐待の防止と差別の解消
 障害者虐待防止法(2012年施行)や差別解消法(2016年施行)を活用しながらも、現状では虐待や差別事案が依然として存在します。特に家庭内での虐待が増加傾向にあり、親子の孤立が背景となっています。市町村レベルで設置された虐待防止センターの機能強化や、関係者との連絡調整を進めることで、早期発見や適切な対応を可能にする必要があります。また、差別を解消するためには合理的配慮の普及を加速させる取り組みが不可欠です。地域住民や事業者に向けて普及啓発を進め、障がい者が地域で安心して暮らせる環境を構築することを目指します。

(2) 関係機関による強固なネットワークの構築
 障がい者支援を地域全体で行うためには、相談支援センターや生活支援拠点の整備、関係機関間の連携が重要です。個別支援を通じて地域課題を抽出し、解決策を導くことで、地域そのものを改善していく仕組みを目指します。また、「8050問題」や「親亡き後」の課題を含む複雑なニーズに対応するため、専門機関や基幹相談支援センターの設置促進も進められています。さらに、市町村間の好事例共有や災害時の避難支援など、包括的なネットワークの活性化も進行中です。

(3) 人材の確保と育成
 少子高齢化が進む中、障がい福祉サービスの需要は増加する一方で、担い手不足が懸念されています。大阪府では、介護・福祉人材確保戦略「2023」を策定し、若年層や中途採用者の参入促進、処遇改善、ICT活用による業務効率化を推進しています。また、専門的なスキルを持つ人材の育成に向けた研修や、好事例の普及も進めています。特に発達障がい者や重度行動障がい者への支援では、専門性を持つ人材が求められており、地域ごとの課題解決力を向上させる取り組みが行われています。

(4) 障がい理解の促進と合理的配慮
 多様な障がいを持つ人々への理解を深め、合理的配慮を日常的に提供する社会を目指します。障がい特性が外見から分かりにくい発達障がいや難病の方々への配慮も強調されています。また、入所施設から地域生活への移行を推進し、地域住民の障がい理解を促進する取り組みも進行中です。加えて、司法福祉連携の不足による受け皿の乏しさを改善し、障がい者が地域で支えられる環境を整備することも課題となっています。

(5) ユニバーサルデザインの推進
 バリアフリーやICTを活用した環境整備を進め、すべての人が快適に暮らせる社会を目指します。「大阪府ユニバーサルデザイン推進指針」に基づき、先進技術を活用しながら障がい者への支援を強化するとともに、情報アクセシビリティの向上も図っています。大阪・関西万博を契機に、AI技術の活用を拡大し、障がい者の生活の質を向上させる取り組みが進められています。

(6) 大阪府全体の底上げ
 府内全域で障がい者が希望する生活を送れるよう、自治体間の格差解消や、専門性の高い分野での支援拡充が進められています。たとえば、高次脳機能障がい者や医療的ケアが必要な障がい者への新たな支援の確保、発達障がい児者への適切な対応、災害時の避難支援など、多岐にわたる課題への取り組みが強化されています。大阪府全体でPDCAサイクルを活用し、計画的に課題解決を図る体制を構築しています。

3.具体的な取組み

(1)障がい者虐待の防止や差別の禁止
 大阪府では、障がい者差別や虐待の防止、住まいの確保、そして社会的理解の促進を目指した取り組みを進めています。事業者による合理的配慮の提供を法的に義務化し、障害者差別解消法や条例の周知、心のバリアフリー推進などを通じて理解促進を図っています。また、障がい者の住まいの場の確保では、入居差別を防ぐための行政指導や相談窓口の設置、「住宅セーフティネット法」に基づく居住支援協議会の設立など、住宅部門と福祉部門の連携強化を進めています。
 さらに、障害者虐待防止法に基づき、大阪府障がい者権利擁護センターが市町村を支援し、虐待防止研修や啓発活動を実施しています。障がい理解の促進に向けては、府民や事業者に対する啓発活動を継続し、障がい者団体や企業と協力して差別防止に取り組んでいます。また、旧優生保護法に基づく優生手術を受けた方々への一時金支給については、広報活動や法改正の働きかけを通じて救済を進めています。
 これらの施策を通じて、大阪府は障がい者の権利保護や生活支援、地域社会における共生の実現を目指しています。

(2)関係機関による強固なネットワークの構築
 大阪府は、引きこもりや社会的孤立、障がい者への支援を中心に、包括的な地域支援体制の構築を進めています。ひきこもり地域支援センターでは、本人や家族からの相談に応じ、関係機関との連携や研修を通じた支援体制の強化を図っています。また、障がい児者の多様なニーズに応じ、市町村での相談支援体制の充実や基幹相談支援センターの設置、自立支援協議会の活性化を推進しています。
 障がい者の高齢化や緊急時の受け入れ体制の整備も進めており、市町村へ必要な助言を行いながら「親なき後」に備えた安心できる生活環境の構築を目指しています。さらに、防災部局や福祉部局が連携し、災害時に避難行動が取れるよう支援体制の強化や福祉避難所の確保に努めています。
 地域福祉の分野では、福祉施設の連携を促進し、災害時の支援や地域交流の活性化を進める「地域貢献委員会」の設置を推奨しています。また、市町村訪問を通じて先進事例や最新情報を共有し、地域全体で福祉と共生のまちづくりを推進するための基盤を整えています。これらの取り組みを通じ、誰もが安心して暮らせる地域社会の実現を目指しています。

(3)人材の確保と育成
 大阪府は、障がい福祉分野での人材確保と育成、従事者の処遇改善に取り組んでいます。高度化・多様化する支援ニーズに対応するため、大阪福祉人材支援センターでは職業紹介や就職フェアを通じたマッチングを進めるとともに、高校生・大学生を対象にインターンシップを実施し、介護・福祉職への理解を深めています。また、教職員向けセミナーや福祉職の魅力発信を通じ、若い世代の参入を促しています。
 障がい福祉サービス従事者の処遇改善については、国に対して配置基準や処遇改善加算の見直しを要望し、安定した人材確保を目指しています。さらに、職員の資質向上のため、新任職員から管理職までの階層別研修を実施し、専門的知識や技術の習得を支援しています。
 府立障がい者支援施設では、強度行動障がいや高次脳機能障がいなどに対応する支援技法や知見を蓄積し、それらを民間事業所へ普及させるための研修を行っています。また、研修や資格取得時には障がいのある受講者への合理的配慮を徹底し、学びやすい環境を整備しています。
 これらの取り組みにより、福祉分野での人材確保、職場環境の向上、そして質の高いサービス提供を実現し、持続可能な障がい福祉の体制を構築していくことを目指しています。

(4)障がい理解の促進と合理的配慮の浸透
 大阪府は、障がい者差別の解消と災害時の支援強化を目的としたさまざまな取り組みを進めています。障がいに対する偏見や差別をなくすため、府民や事業者に向けた啓発活動を実施し、行政だけでなく障がい者団体や企業とも連携して啓発物を作成・配布しています。また、入所施設や市町村が地域住民や地域資源と連携し、障がい者の地域移行と理解促進を支える体制づくりを推進しています。
 公正な採用選考の推進では、企業に対して公正採用選考人権啓発推進員の設置を求めるとともに、「障がい者雇用」をテーマにした研修や啓発冊子を活用し、障がい者への公平な雇用機会の確保を図っています。
 災害時の避難支援では、防災部局と福祉部局が連携し、ハザードマップの活用や避難行動要支援者への理解を深める取り組みを進めています。音声読み上げ対応など、あらゆる人が利用可能なハザードマップの普及も目指しています。これらの施策を通じて、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指しています。

(5)ユニバーサルデザインの推進
 大阪府では、AIやICTなどの先進技術を活用し、障がい者の負担軽減や生活支援を進めています。行政手続きのオンライン化により、障がい者が自宅から手続きできる環境を整えるほか、AIオンデマンド交通の導入で移動負担を軽減する取り組みを推進しています。また、大阪・関西万博を「未来社会の実験場」として活用し、障がいの有無にかかわらず全ての人が参加・体験できるユニバーサルデザイン社会の実現を目指しています。
 さらに、大阪府立福祉情報コミュニケーションセンターを中心に、手話や盲ろう者通訳など意思疎通支援を充実させることで、情報へのアクセスを支援しています。また、大阪府ユニバーサルデザイン推進指針に基づき、心のバリアフリーや建築物・鉄道駅のバリアフリー化を推進し、市町村の基本構想の作成を促進することで、面的かつ一体的なバリアフリー環境の整備を進めています。
 これらの取り組みを通じて、障がい者を含む全ての人が暮らしやすい社会の構築を目指しています。

(6)大阪府全体の底上げ
 大阪府は、障がい者支援において関係機関との連携強化や好事例の発信を通じて地域支援体制の向上を目指しています。地域自立支援協議会の機能強化に取り組み、相談支援の充実や顔の見える関係構築を推進するとともに、難病患者や家族への支援として個別訪問や情報発信を実施。精神疾患に関する専門研修や医療的ケア児への支援も行い、地域の支援ネットワークの強化を図っています。
 また、障がい者の自立生活と社会参加を促進するため、移動支援事業や障がい福祉サービスの体制整備を進め、聴覚障がい児には早期発見から支援拠点への連携を確立。発達障がいや強度行動障がい、高次脳機能障がい者への支援では、専門的な人材育成や啓発資料の普及を進めています。さらに、罪を犯した障がい者に対する司法と福祉の連携強化も取り組みの一環としています。
 加えて、障がい福祉サービス事業所の職場環境改善に向けた報酬改定の国への要望や、地域での障がい者支援に必要な助言を市町村に提供し、障がい特性に応じたサービスの提供体制を整備しています。これらの施策を通じて、誰もが安心して地域で暮らせる支援環境の実現を目指しています。

第5次大阪府障がい者計画