計画策定の趣旨
「ひょうご障害者福祉計画」は、兵庫県内の障害者福祉施策を計画的に推進するための基本的な指針として位置付けられています。この計画は、県の人口推移や地域の情勢、新型コロナウイルス感染症の影響を含む社会情勢を考慮し、福祉、医療、雇用、消費、地域安全などの多岐にわたる分野での施策を提言するものです。計画の対象期間は令和4年度から令和8年度までの5年間で、持続可能で包括的な共生社会の実現を目指しています。
この計画は、前計画の成果と課題を踏まえ、障害者一人ひとりが尊重され、地域社会の中で自立した生活を送るための施策を具体化することを目的としています。これにより、兵庫県全体で「誰もが暮らしやすい社会」の形成を目指しています。
国の障害福祉施策の変遷と基盤
1. 戦後からの措置制度の時代
戦後、日本の障害者福祉制度は行政処分として地方公共団体が給付を決定する措置制度が中心でした。この仕組みは長年にわたり運用されてきましたが、利用者の主体的な意思決定が制限されるという課題がありました。
2. 平成12年の社会福祉基礎構造改革
平成12年に実施された社会福祉基礎構造改革では、「個人が人としての尊厳をもって、家庭や地域の中で、障害の有無や年齢に関わらず、その人らしい安心のある生活を送れるよう自立を支援すること」を基本理念に掲げ、利用者の自己決定や自己選択を重視する方向へと大きく転換しました。この改革では、従来の措置制度が見直され、身体障害者、知的障害者、障害児(居宅のみ)の障害福祉サービスが、利用契約方式を中心とする支援費制度に移行しました。
3. 平成18年の障害者自立支援法
平成18年には「障害者自立支援法」が施行され、障害特性に配慮した施策が展開されました。この法律では、身体障害、知的障害、精神障害の3障害を一元的に対応する枠組みが導入され、就労支援や地域移行の推進が重点的に進められました。しかし、利用者負担の導入により、低所得者層を中心に負担感が増大し、事業者側にも経営面での課題が生じたため、激変緩和を目的とした対策が順次講じられました。
4. 平成24年以降の障害者総合支援法
平成24年には、「障害者自立支援法」に代わる新たな法律として「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が施行されました。この法律では、人権の尊重、地域共生、社会参加機会の確保、社会的障壁の除去等が基本理念として掲げられています。また、障害者の範囲に難病患者が含まれるようになり、障害程度区分から、障害特性や心身の状態に応じた「障害支援区分」への移行が行われました。
計画の主な特徴と意義
1. 計画の対象と期間
本計画は、令和4年度から令和8年度までの5年間を対象とし、県内外の社会情勢や人口動態の変化を反映させた内容となっています。
2. 幅広い分野への対応
福祉、医療、雇用、消費、地域安全など、多岐にわたる分野を横断的にカバーし、障害者が生活しやすい社会環境を目指した施策が計画されています。
3. 新型コロナウイルス感染症の影響への対応
コロナ禍がもたらした生活様式の変化や課題を踏まえ、柔軟で持続可能な福祉施策を展開されています。
4. 基本理念としての「共生社会」
障害の有無にかかわらず、すべての人々が尊重される「共生社会」の実現を基本理念としています。これにより、障害者が地域の一員として尊重され、社会参加や自立を果たす環境を整備します。
5. 国の施策との連携
国の障害者総合支援法や関連法案との整合性を保ちながら、地域の特性に応じた対応を進めます。
計画に基づく具体的施策
1. 就労支援の充実
障害者がその能力を活かして働ける環境を整備するため、雇用機会の創出や職場での合理的配慮の推進を図ります。
2. 地域生活支援の促進
障害者が地域社会で自立した生活を送るための支援体制を構築し、地域移行後のフォローアップを含めた支援を行います。
3. 医療との連携強化
医療機関と福祉施設の連携を進め、障害者が必要な医療サービスを受けられる体制を整備します。
4. 経済的負担の軽減
利用者負担の軽減を図り、すべての障害者が福祉サービスを利用しやすい環境を提供します。
5. 福祉事業者の経営基盤の強化
福祉サービスを提供する事業者に対する支援を充実させ、安定したサービス提供を確保します。
計画の実現に向けた課題と展望
1. 社会全体の意識改革
共生社会の実現には、障害者に対する偏見や差別をなくし、障害者が地域の一員として自然に受け入れられる社会の意識改革が必要です。
2. 柔軟な対応策の構築
計画期間中に生じる可能性のある新たな課題に柔軟に対応するための仕組みを構築します。
3. 持続可能な仕組みづくり
社会情勢の変化に対応しながら、持続可能な福祉サービス提供の仕組みを確立する必要があります。
4. 地域の特性を活かした取り組み
地域ごとに異なる課題やニーズを考慮し、効果的な施策を実施することで、障害者が自立して生活できる環境を整備します。
まとめ
「ひょうご障害者福祉計画」は、兵庫県内の障害者福祉を包括的に支援する基本指針であり、その目的は、障害者が地域で安心して生活できる社会の実現にあります。国の障害福祉政策の変遷を踏まえ、地域の特性に応じた柔軟な対応を進めるとともに、共生社会の理念を実現するための取り組みが期待されています。今後、行政、事業者、地域住民が連携し、障害者が尊重される社会の構築が進められるでしょう。