2026年4月施行「クリニック開業規制」を行政書士が徹底解説——開業医・勤務医が今すぐ知るべき新制度と戦略

医療に関する許認可

はじめに:2026年、医療業界の大転換期が訪れます

「将来はクリニックを開業したい」「地元に戻って地域医療に貢献したい」——そんな夢を描いている勤務医の先生方に、重要なお知らせがあります。

2026年4月から、改正医療法により「外来医師過多区域」でのクリニック開業に新たな手続きが導入されます。この制度変更は、開業を検討されている全ての医師の方々に影響する、医療業界の大きな転換点です。

本記事では、医療機関の許認可業務を専門とする行政書士の視点から、新制度の内容、実務上の影響、そして今後の開業戦略について詳しく解説します。

1. 医療法改正の背景:なぜ「クリニック開業規制」が導入されるのか

1-1. 深刻化する医師偏在問題

日本の医療が抱える最大の課題のひとつが「医師偏在」です。厚生労働省の統計によれば、人口10万人あたりの医師数は、都市部と地方で2倍以上の開きがあります。

東京都や大阪府などの都市部には医師が集中する一方で、地方では医師不足により病院の診療科が閉鎖されたり、救急医療体制が維持できなくなったりする事態が続いています。

1-2. 医師偏在対策の一環としての開業規制

こうした状況を是正するため、国は2024年12月に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を策定しました。その中核となるのが、今回の開業規制です。

2025年12月5日に改正医療法が国会で成立し、2026年4月1日から順次施行されることが正式に決定しました。

この制度は、都市部への医師集中を抑制し、地方での医療提供体制を守ることを目的としています。

2. 「外来医師過多区域」とは?対象地域を徹底解説

2-1. 外来医師過多区域の定義

外来医師過多区域とは、以下の2つの条件を満たす地域を指します:

  1. 外来医師偏在指標が「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上
  2. 可住地面積あたりの診療所数が全国上位10%に該当

簡単に言えば、「医師が多すぎて、診療所も密集している地域」ということです。

2-2. 2026年1月時点の候補地域(9区域)

現時点で厚生労働省が公表している外来医師過多区域の候補は以下の9区域です:

東京都(5区域)

  • 区中央部:千代田区、中央区、港区、文京区、台東区
  • 区西部:新宿区、中野区、杉並区
  • 区西南部:目黒区、世田谷区、渋谷区
  • 区南部:品川区、大田区
  • 区西北部:豊島区、北区、板橋区、練馬区

その他の大都市(4区域)

  • 京都府:京都市、向日市、長岡京市、大山崎町
  • 大阪府:大阪市
  • 兵庫県:神戸市
  • 福岡県:福岡市、糸島市

ただし注意が必要なのは、これらはあくまで「候補」であり、最終的な指定は各都道府県が医療計画の中で決定するという点です。

2-3. 開業予定地の確認方法

開業を検討されている先生方は、まず以下の方法で情報を確認してください:

  • 都道府県のウェブサイトで「外来医療計画」「医療計画」を確認
  • 地域の医師会に問い合わせる
  • 保健所の医療担当部署に相談する
  • 医療機関の許認可に詳しい行政書士に相談する

3. 2026年4月以降の開業手続き:何が変わるのか

3-1. 開業6か月前の事前届出が義務化

最も大きな変更点は、外来医師過多区域で無床診療所を開設する場合、開業予定日の6か月前までに都道府県へ事前届出を提出することが義務化される点です。

事前届出の主な記載事項

  • 届出者の住所・氏名
  • 開設予定の診療所名称
  • 開設予定地(市区町村等、可能な限り詳細に)
  • 開設予定年月日
  • 診療科目
  • 従業者の定員
  • 地域外来医療の提供に関する意向
  • 地域外来医療を提供する場合の具体的内容(頻度・時期を含む)
  • 地域外来医療を提供しない場合の理由

従来の診療所開設届は開設後10日以内の提出でしたが、新制度では開業の半年前に届出が必要になります。開業スケジュールを立てる際には、この点を必ず考慮してください。

3-2. 都道府県からの「要請」とは

事前届出を受けた都道府県は、地域の医療提供体制を踏まえて、「地域で不足している医療機能」の提供を要請することができます。

要請される可能性のある医療機能

  1. 夜間・休日における初期救急医療(在宅当番医制度への参加、夜間休日急患センターへの出務など)
  2. 在宅医療の提供(訪問診療、往診など)
  3. 学校医・予防接種等の公衆衛生に係る医療
  4. 医師不足地域での医療提供(土日の代替医師としての診療など)

重要なのは、この要請は法的な「命令」ではなく、あくまで「お願い」であるという点です。医師には応じる義務はありません。

ただし要請を拒否した場合、都道府県に対して理由を説明する義務が生じます。

3-3. 要請に応じない場合のプロセスとペナルティ

要請を受けた開業希望者が地域外来医療を提供しない意向を示した場合、以下のプロセスを経ます:

ステップ1:協議の場への参加要請
都道府県は「外来医療の協議の場」への参加を求め、地域外来医療を提供しない理由について説明を求めます。

ステップ2:期限を定めた要請
協議の場での説明内容を踏まえ、理由がやむを得ないと認められない場合、1〜2週間程度の回答期限を定めて要請します。

ステップ3:開業後のフォローアップ
要請を受けて開業した診療所が実際に要請内容を実施しているか、都道府県は年1回程度確認します。

ステップ4:勧告
要請に係る地域外来医療を提供していないと認められる場合、都道府県医療審議会の意見を聴いて勧告することができます。

ステップ5:公表と厚生労働大臣への通知
勧告に従わなかった場合、その旨を公表します。また、要請に応じなかった場合、勧告をした場合、勧告に従わなかった場合には、厚生労働大臣に通知します。

3-4. 最も影響が大きい「保険医療機関の指定期間短縮」

実務的に最も影響が大きいのが、保険医療機関の指定期間の短縮です。

指定期間対象となる診療所
通常6年要請に応じた診療所、または要請を受けなかった診療所
3年要請を受けて期限までに応じなかった診療所、勧告を受けた診療所
2年再々指定時以降に勧告に従わない状態が続いた場合

保険医療機関の指定期間が短縮されるということは、定期的な更新手続きが必要になり、事務負担が増えるだけでなく、経営上の不確実性も高まります。

4. 開業医・勤務医が知っておくべき実務上の注意点

4-1. 開業スケジュールの見直しが必須

従来は物件が決まってから数か月で開業できましたが、新制度では開業の6か月前に事前届出が必要です。

新しい開業スケジュール(目安)

  • 開業12〜18か月前:開業地の選定、事業計画策定
  • 開業6か月前:事前届出の提出
  • 開業3〜4か月前:物件契約、内装工事開始
  • 開業2か月前:診療所開設届、保険医療機関指定申請
  • 開業1か月前:スタッフ採用、研修
  • 開業日

特に物件契約のタイミングには注意が必要です。事前届出の段階では物件が未確定でも構いませんが、都道府県からの要請内容によっては、物件の選定基準が変わる可能性があります。

4-2. 地域で不足する医療機能の事前確認

都道府県は「外来医療の協議の場」で事前に地域で不足する医療機能を協議し、公表することになっています。

開業を検討する段階で、自分の開業予定地でどのような医療機能が求められているかを事前に確認し、事業計画に反映させることが重要です。

4-3. 診療報酬上の加算を戦略的に活用

地域外来医療の提供は負担が増えますが、診療報酬上の加算を活用することで、経営的なメリットも得られます。

主な加算例

  • 在宅時医学総合管理料(月1回、2,800〜5,400点)
  • 往診料(基本720点+加算)
  • 時間外加算、休日加算、深夜加算
  • 地域包括診療加算(月1回、20点)
  • 機能強化加算(初診時、80点)

これらの加算を戦略的に組み合わせることで、地域貢献と経営の両立が可能になります。

5. 今後の開業戦略:3つのシナリオ

5-1. シナリオ①:都市部開業×地域貢献型モデル

東京や大阪などの都市部で開業しつつ、地域で不足している医療機能を診療計画に組み込むアプローチです。

具体例

  • 一般内科クリニック+訪問診療+夜間診療
  • 整形外科クリニック+学校医+産業医
  • 小児科クリニック+予防接種センター機能+病児保育

メリット

  • 患者アクセスが良好な都市部で開業できる
  • 地域から評価される診療モデルを構築できる
  • 診療報酬上の加算を活用できる

デメリット

  • 夜間診療や訪問診療に対応するためのスタッフ確保が必要
  • 医師の負担が増える

5-2. シナリオ②:地方・医師不足区域での開業

都市部を離れ、医師不足が深刻な地方で開業するアプローチです。

2028年度からは「重点医師偏在対策支援区域」において、施設整備費の補助、派遣医師への手当増額などの支援制度が本格実施される予定です。

メリット

  • 支援が手厚く、経済的インセンティブを得られる
  • 競合が少ない
  • 地域からの期待と信頼を得やすい

デメリット

  • 患者数に天井がある
  • スタッフのリクルートが都市部より難しい

5-3. シナリオ③:規制対象外エリア・自由診療特化

外来医師過多区域を避けて開業するか、あるいは自由診療に特化することで、規制の影響を受けない道を選ぶアプローチです。

具体例

  • 美容医療、予防医療、セカンドオピニオン外来
  • 外来医師過多区域に隣接する市区町村での開業
  • オンライン診療専門クリニック

メリット

  • 規制や要請に縛られない
  • 自分の理想とする診療スタイルを追求できる

デメリット

  • 保険診療による安定収益を得られない
  • 集患にマーケティング力が求められる

6. 行政書士ができるサポート:開業手続きを完全代行

6-1. 医療機関開設の許認可業務

診療所を開業するには、多くの行政手続きが必要です。行政書士は、これらの手続きを専門的にサポートします。

主な業務内容

  • 事前届出の作成・提出(2026年4月以降)
  • 診療所開設届の作成・提出
  • 保険医療機関指定申請の作成・提出
  • 診療用X線装置備付届の作成・提出
  • 麻薬施用者・麻薬管理者免許申請
  • 結核医療機関指定申請
  • 生活保護法指定医療機関申請

6-2. 医療法人設立の認可申請

将来的に医療法人化を検討されている場合、医療法人設立認可申請も行政書士の専門分野です。

医療法人の設立には、定款作成、設立総会の開催、都道府県への認可申請、登記など、複雑な手続きが必要です。

7. よくある質問(FAQ)

Q1. 外来医師過多区域での開業は禁止されるのですか?

A. いいえ、禁止されるわけではありません。事前届出が必要になり、地域で不足する医療機能の提供を要請される可能性がありますが、開業そのものは可能です。

Q2. 要請を断ることはできますか?

A. はい、要請は法的な命令ではないため、断ることができます。ただし理由の説明が必要で、保険医療機関の指定期間が短縮されるなどの影響があります。

Q3. すでに開業している診療所は影響を受けますか?

A. 2026年10月以降に開設した無床診療所が対象です。それ以前に開業した診療所は対象外です。

Q4. 医療法人が分院を開設する場合も対象ですか?

A. はい、医療法人が外来医師過多区域に新たに無床診療所を開設する場合も対象になります。

Q5. 自由診療専門のクリニックも対象ですか?

A. 保険診療を行わない完全自由診療のクリニックは、保険医療機関の指定を受けないため、実質的に規制の影響を受けません。

8. まとめ:2026年、開業医療の新時代へ

2026年4月から施行される改正医療法は、クリニック開業のあり方を大きく変える転換点です。

しかしこれは、「規制」というよりも、「地域に本当に必要とされる医療とは何か」を考え直す機会だと捉えるべきでしょう。

都市部での開業であれば、在宅医療や夜間診療など地域貢献型のモデルを構築することで、地域から信頼される診療所として確固たる地位を築けます。

地方での開業であれば、手厚い支援制度を活用しながら、地域医療の中核を担う存在として活躍できます。

いずれの道を選ぶにせよ、早めの情報収集と戦略的な準備が成功の鍵です。

私たち行政書士は、診療所開設の届出から医療法人設立まで、開業に関するあらゆる手続きをサポートしています。2026年4月からの新制度についても、最新情報をもとに丁寧にご説明いたします。

開業に関するご相談、ぜひお気軽にお声がけください。先生方の夢の実現を、全力でサポートいたします。


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