認知症の相続人がいると遺産分割が進まない理由と解決策|行政書士が徹底解説【2026年最新版】

遺言・相続

目次

  1. 増え続ける「認知症相続人」問題とは
  2. なぜ認知症だと遺産分割協議ができないのか
  3. 実際に起こるトラブル事例
  4. 唯一の解決策:成年後見制度の活用
  5. 成年後見制度のメリットとデメリット
  6. 事前にできる3つの対策
  7. 遺言書作成のポイント
  8. 家族信託という選択肢
  9. 相続登記義務化との関係
  10. まとめ:今すぐ始めるべき相続対策

1. 増え続ける「認知症相続人」問題とは

日本は超高齢社会を迎え、65歳以上の高齢者が人口の約30%を占めています。それに伴い、認知症患者数も年々増加しており、2025年には約700万人に達すると推計されています。

このような背景から、「相続が発生したとき、相続人の中に認知症の方がいる」というケースが急増しているのです。

一見すると「本人の代わりに家族が署名すればいい」と思われるかもしれませんが、実はそう簡単にはいきません。法律上、認知症で判断能力が不十分な方は、遺産分割協議という重要な法律行為を有効に行うことができないのです。

2. なぜ認知症だと遺産分割協議ができないのか

遺産分割協議とは

相続が発生すると、亡くなった方(被相続人)の財産は、いったん相続人全員の「共有状態」になります。この共有状態を解消し、誰が何を相続するかを決めるのが「遺産分割協議」です。

法律上の要件

民法では、遺産分割協議は「相続人全員の合意」が必要とされています。そして、この「合意」が有効であるためには、各相続人に「意思能力」が備わっていることが前提です。

認知症と意思能力

認知症が進行し、判断能力が著しく低下している場合、法律上「意思能力がない」と判断されます。意思能力がない状態で行われた法律行為は無効となります。

つまり:

  • 認知症の相続人を無視して協議を進める → 協議自体が無効
  • 認知症の相続人に無理やり署名させる → 協議が無効になるリスク
  • 家族が代わりに署名する → 私文書偽造の犯罪行為

このように、認知症の相続人がいる場合、通常の遺産分割協議ができなくなってしまうのです。

3. 実際に起こるトラブル事例

ケース1:母が認知症で銀行口座が凍結されたまま

父が亡くなり、相続人は80代の母と子ども3人。母は認知症で施設に入所中。父名義の預金は銀行で凍結され、遺産分割協議が成立しないため払い戻しができない。母の施設費用の支払いにも困る状況に。

ケース2:不動産の名義変更ができず過料のリスク

2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。しかし、認知症の相続人がいるため遺産分割協議ができず、登記も進められないという状況が発生しています。

ケース3:相続税の申告期限が迫る

相続税の申告期限は相続発生から10ヶ月以内です。しかし遺産分割協議が成立しないと、配偶者控除などの特例が使えず、多額の相続税を支払わなければならないケースもあります。

4. 唯一の解決策:成年後見制度の活用

認知症の相続人がいて遺産分割協議ができない場合、法律上認められている唯一の解決策が「成年後見制度」の活用です。

成年後見制度とは

判断能力が不十分な方を保護・支援するための制度で、家庭裁判所が「成年後見人」を選任します。後見人は本人の財産管理や契約行為を本人に代わって行う権限を持ちます。

遺産分割協議における役割

成年後見人が選任されれば、その後見人が認知症の相続人の代理として遺産分割協議に参加できます。これにより、法律上有効な遺産分割協議を成立させることができます。

特別代理人が必要なケース

ただし、後見人自身も相続人である場合(例:子が親の後見人で、同じ相続の当事者)は、「利益相反」となるため、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。

5. 成年後見制度のメリットとデメリット

メリット

✓ 法律上、唯一認められた解決手段
✓ 本人の財産を適切に管理・保護できる
✓ 遺産分割協議を進めることができる
✓ 詐欺や悪質商法から本人を守れる

デメリット

✗ 申立から選任まで数ヶ月かかることがある
✗ 専門家が後見人になる場合、月額2〜6万円程度の報酬が発生
✗ 一度始めると原則として本人が亡くなるまで続く(途中でやめられない)
✗ 後見人の判断で自由に財産を使えなくなる
✗ 相続税対策などの資産運用が原則できなくなる

特に、報酬が継続的に発生する点は大きな負担となります。仮に月3万円の報酬で10年間続けば、総額360万円もの費用がかかることになります。

6. 事前にできる3つの対策

成年後見制度は「事後対応」の手段です。本当に大切なのは、認知症になる前の「事前対策」です。

対策1:遺言書の作成

最も基本的かつ効果的な対策が「遺言書」です。

遺言書があれば:

  • 遺産分割協議そのものが不要になる
  • 相続人の中に認知症の方がいても問題なく手続きが進む
  • 被相続人の意思が明確になり、争いを防げる

特に「公正証書遺言」は、公証人が作成するため方式不備のリスクがなく、原本が公証役場に保管されるため紛失の心配もありません。

対策2:家族信託の活用

近年注目されているのが「家族信託」という仕組みです。

家族信託とは:
元気なうちに、自分の財産の管理・処分権限を信頼できる家族に託す契約です。

メリット:
✓ 認知症になっても柔軟な財産管理が可能
✓ 成年後見制度のような裁判所の関与が不要
✓ 資産承継と財産管理を同時に設計できる
✓ 相続税対策も継続できる

例えば、父親が認知症になる前に「息子を受託者とする家族信託契約」を結んでおけば、父親が認知症になった後も、息子の判断で不動産の売却や預金の管理ができます。

対策3:任意後見契約

「自分で後見人を選んでおく」のが任意後見契約です。

法定後見(裁判所が選ぶ)ではなく、元気なうちに「この人に任せたい」という人と契約しておくことで、判断能力が低下したときにその人が後見人になります。

報酬なども事前に決められるため、法定後見より柔軟な設計が可能です。

7. 遺言書作成のポイント

遺言書を作成する際は、以下のポイントに注意しましょう。

形式を選ぶ

  • 自筆証書遺言:手軽だが方式不備のリスクあり。法務局の保管制度を利用すれば安全性が高まる
  • 公正証書遺言:費用はかかるが、最も確実。専門家のチェックが入る

遺留分に配慮する

一部の相続人には最低限の取り分(遺留分)が保障されています。遺留分を侵害する内容だと、後にトラブルになる可能性があります。

定期的に見直す

財産状況や家族関係は変化します。数年に一度は内容を見直し、必要に応じて書き直しましょう。

付言事項を活用する

法的効力はありませんが、「なぜこのような内容にしたのか」という思いを書いておくことで、相続人の納得感が高まります。

8. 家族信託という選択肢

家族信託は、遺言書では対応しきれない柔軟な財産管理を可能にします。

家族信託の基本構造

  • 委託者:財産を託す人(通常は親)
  • 受託者:財産を管理する人(通常は子)
  • 受益者:利益を受ける人(通常は委託者本人)

認知症対策としての活用

父親が委託者兼受益者、長男が受託者という信託契約を結んでおけば:

  • 父親が認知症になっても、長男が財産を管理できる
  • 父親の生活費や医療費は信託財産から支出できる
  • 不動産の売却なども長男の判断でできる
  • 成年後見制度を使わずに済む

相続対策との組み合わせ

信託契約の中で「委託者が亡くなったら、この財産は長男に、この財産は次男に」という指定もできます。これは遺言書の機能も兼ね備えることになります。

注意点

家族信託は比較的新しい制度のため、対応できる専門家が限られています。また、設計が複雑なため、専門家への報酬も数十万円単位でかかることが一般的です。

9. 相続登記義務化との関係

2024年4月から「相続登記の義務化」が施行されました。

義務化の内容

  • 不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務
  • 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科される可能性
  • 過去の相続も対象(施行日時点で未登記のものも含む)

認知症相続人がいる場合の対応

遺産分割協議ができない場合でも、期限は待ってくれません。そのため:

  1. 相続人申告登記を利用する
    → 暫定的に「私は相続人です」と申告する制度。遺産分割協議成立までの時間稼ぎになる
  2. 法定相続分での登記を行う
    → 後見人選任を待たず、いったん法定相続分で登記しておく方法
  3. 成年後見制度を急いで申し立てる
    → 遺産分割協議を成立させ、正式な登記を行う

いずれにしても、早めの対応が重要です。

10. まとめ:今すぐ始めるべき相続対策

認知症相続人問題のポイント

✓ 認知症の相続人がいると、遺産分割協議ができない
✓ 解決策は成年後見制度だが、時間・費用・制約が大きい
✓ 最も合理的なのは「事前の準備」

今すぐできること

50代・60代の方へ

  • 親の認知症リスクを考え、遺言書の作成を提案する
  • 家族信託の検討を始める
  • 親の財産状況を把握しておく

70代以上の方へ

  • 元気なうちに遺言書を作成する
  • 家族信託や任意後見契約を検討する
  • 財産の整理・断捨離を始める

すでに親が認知症の方へ

  • 成年後見制度の申立を検討する
  • 相続登記義務化の期限を確認する
  • 専門家(行政書士・司法書士・弁護士)に早急に相談する

専門家への相談が重要

相続と認知症の問題は、法律・税務・家族関係など多岐にわたる知識が必要です。「まだ大丈夫」と先延ばしにせず、一度専門家に相談してみることをおすすめします。

私たち行政書士は、遺言書作成や相続手続きのサポートを通じて、皆様の「安心できる老後」のお手伝いをしています。どうぞお気軽にご相談ください。


【参考記事】
認知症の相続人がいると遺産分割は進まない…たった1つの解決策とは?
https://news.yahoo.co.jp/articles/85f46ff6bcbabc0093cbce64374b81de173a3e2d

【関連キーワード】

認知症相続 #遺産分割協議 #成年後見制度 #家族信託 #遺言書作成 #相続登記義務化 #相続対策 #終活 #行政書士 #相続手続き #高齢化社会 #意思能力 #法定後見 #任意後見 #相続トラブル