- はじめに——医療法人設立は「準備の質」がすべて
- 医療法人設立が一般企業と異なる3つの理由
- 医療法人設立の全体スケジュール——7つのステップを理解する
- ステップ1:準備段階——法人の骨組みを作る(約2〜3か月)
- ステップ2:仮申請(事前審査)——実質的な内容審査が行われる(約3〜4か月)
- ステップ3:本申請・審査・認可取得——正式な書類提出(約2〜3か月)
- ステップ4:法人設立登記——法人格の正式取得(認可後2週間以内)
- ステップ5:医療機関の開設許可申請・届出——診療開始への第一歩
- ステップ6:保険医療機関指定申請——保険診療を行うために必須
- ステップ7:開設後の諸手続き——法人運営のスタート
- 医療法人設立を成功させる5つのポイント
- まとめ——医療法人設立は「準備の質」がすべて
はじめに——医療法人設立は「準備の質」がすべて
クリニック開業をお考えの先生方から、「医療法人の設立って、会社を作るのと同じですよね?」というご質問をよくいただきます。しかし実際には、医療法人設立は一般企業の設立とは大きく異なります。
医療法人は医療法に基づく厳格な認可制度の下で設立されるため、準備から開業まで約10か月〜1年かかることも珍しくありません。さらに、都道府県ごとに異なる受付期間や審査基準があり、「全国一律の流れ」と「各地域特有の注意点」の両方を理解する必要があります。
この記事では、医療法人設立の全体像を7つのステップに分けて解説し、開業を成功させるための実践的なポイントをお伝えします。
医療法人設立が一般企業と異なる3つの理由
1. 認可制度に基づく厳格な審査
一般企業の設立は「届出制」ですが、医療法人は「認可制」です。都道府県知事の認可を受けなければ設立できません。医療審議会での審査を経て、事業計画の妥当性や地域医療への貢献性などが問われます。
2. 申請受付期間が限定されている
多くの自治体では、年に2回程度しか申請受付がありません。兵庫県の場合は年2回です。このタイミングを逃すと、半年〜1年の遅延につながります。
3. 書類の完成度が極めて重要
仮申請で提出した書類は、原則として本申請で内容変更ができません。「後で修正すればいい」という考えは通用せず、最初から完成度の高い書類を準備する必要があります。
医療法人設立の全体スケジュール——7つのステップを理解する
医療法人設立のプロセスは、以下の7つのステップで構成されます。
ステップ1:準備段階(約2〜3か月)
ステップ2:仮申請・事前審査(約3〜4か月)
ステップ3:本申請・審査・認可取得(約2〜3か月)
ステップ4:法人設立登記(認可後2週間以内)
ステップ5:医療機関開設許可申請・届出
ステップ6:保険医療機関指定申請
ステップ7:開設後の諸手続き(税務・社保・医師会など)
それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。
ステップ1:準備段階——法人の骨組みを作る(約2〜3か月)
この段階で決めるべきこと
準備段階は、医療法人設立における「要」とも言える部分です。ここで行う作業は、単なる事務手続きではなく、今後の経営方針を形にしていく作業そのものです。
主な準備内容:
- 社員の選定(3名以上):医療法人の「社員」は株式会社の株主とは異なり、出資を伴わない構成員です。形だけでなく、実質的に責任を持てる人材を選ぶ必要があります。
- 役員の選定:理事(3名以上)、監事(1名以上)を選任します。理事長は医師または歯科医師である必要があります。
- 定款の作成:医療法人の根本規則となる重要な書類です。事業目的、社員・役員の構成、意思決定のルールなどを定めます。
- 事業計画書・収支予算書の作成:開業後の経営をシミュレーションする重要な資料です。診療科目、患者数予測、収支見込みなどを具体的に記載します。
- 診療所の場所・設備の検討:開設予定地の選定、設備投資計画、内装工事のスケジュールなども視野に入れます。
なぜこの段階が重要なのか
ここでの段取りが甘いと、以降のフェーズで何度も差し戻しや修正が必要になり、開業時期が大きくずれる原因になります。
特に事業計画書は、「行政に提出するための書類」ではなく、「開業後の法人運営を想定したシミュレーション」として機能します。数字の整合性や実現可能性が問われるため、安易な作成は禁物です。
ステップ2:仮申請(事前審査)——実質的な内容審査が行われる(約3〜4か月)
仮申請の位置づけ
「仮」という名称から軽微な審査と思われがちですが、実質的な内容審査がここで行われます。都道府県の担当者が書類を詳細にチェックし、不備があれば補正指示が入ります。
仮申請でチェックされる主なポイント
- 定款の内容(事業目的、社員・役員構成など)
- 事業計画の数字の整合性
- 収支予算の妥当性
- 設立趣意書の記載内容
注意すべきこと
仮申請で提出した書類は、原則として本申請で内容変更ができません。このため、「突貫仕上げ」は極めて危険です。
仮申請から本申請までに2〜3か月程度のブラッシュアップ期間が設けられることもありますが、修正指示が繰り返されると本申請の受付期間に間に合わなくなることも。年2回しか申請受付がない地域では、1回の遅れが半年の遅延につながります。
ステップ3:本申請・審査・認可取得——正式な書類提出(約2〜3か月)
本申請で求められること
仮申請を経て内容が固まった申請書類に、「正式な証明」を加える工程です。
主な手続き:
- 公証役場での定款認証
- 役員による実印押印、印鑑証明書の添付
- 不動産賃貸契約書、リース契約書の準備
- 負債の引継ぎがある場合、金融機関からの承諾書
- 資産を現物出資する場合、評価証明書や鑑定書
医療審議会での審査
都道府県の医療審議会において、医療法の要件に加え、経営者の資質や事業計画の実現性、地域医療への貢献性なども問われます。自治体によっては面談や追加説明を求められることもあります。
専門家との連携が不可欠
この段階は「最終審査」であると同時に、「対外的な信頼性を得るプロセス」でもあるため、資料の整合性や論理構成、説明責任の果たし方が問われます。行政書士や税理士など、医療法人に強い専門家と伴走することで、確実な認可取得につながります。
ステップ4:法人設立登記——法人格の正式取得(認可後2週間以内)
登記の重要性
設立認可書を受け取ったら、法務局での法人登記手続きに入ります。この登記が完了することで、医療法人としての法的実体が正式に成立します。
期限厳守が絶対条件
医療法第46条第1項に基づき、認可書の交付日から2週間以内に登記申請を行わなければなりません。この期限を超えると、認可が無効とみなされ、再申請が必要になる恐れがあります。
登記に必要な書類
- 公証役場で認証された定款
- 設立総会議事録
- 理事や監事の就任承諾書と印鑑証明
- 医療法人設立認可書の原本または写し
登記完了後の手続き
登記完了後には「法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)」を取得し、都道府県への登記完了届の提出も必要です。
医療法人の登記に精通した司法書士の協力が不可欠です。
ステップ5:医療機関の開設許可申請・届出——診療開始への第一歩
開設許可と開設届の違い
- 有床診療所・病院:保健所への開設許可申請+現地調査
- 無床診療所:診療所開設届の提出(原則10日前まで)
保健所のチェック項目
保健所は現地調査を行い、構造・設備・衛生管理体制が法令基準を満たしているかを厳しくチェックします。問題があれば許可が下りず、予定していた開業日に間に合わなくなることもあります。
個人医院からの移行の場合
個人医院から法人への移行の場合、旧医院の廃止届と新規開設届を同日提出する調整が必要です。これがずれると、保険診療の継続性や患者様への影響が生じます。
提出書類
- 管理者(院長)の就任承諾書
- 免許証コピー
- 施設図面
- 設備リスト
- 防火・防災体制の資料
ステップ6:保険医療機関指定申請——保険診療を行うために必須
なぜ保険医療機関指定が必要か
医療法人として設立・登記・開設届が完了しても、保険診療を行うためには「保険医療機関」としての指定を受けなければなりません。指定を受けないと、自由診療しか提供できず、診療報酬の収益構造を大きく左右します。
申請のタイミング
各地方厚生局ごとに、毎月1日または15日を基準日として指定発効するスケジュールが組まれています。例えば関東信越厚生局では、毎月1日・15日のいずれかに合わせて申請を行います。
必要書類
- 登記事項証明書
- 開設許可証(または開設届受理書)
- 管理者の医師免許証写し
- 施設の図面や設備一覧
- 管理者就任承諾書
- 保険医療機関指定申請書
注意点
法人名義・施設所在地・管理者名などが申請書と登記簿・届出書類と完全に一致しているか確認が必要です。形式的なミスがあると差し戻しになります。
また、個人医院から法人へ移行する場合、旧医院の保険医療機関指定の「廃止届」も同時に提出する必要があります。この廃止届と新規指定が同日付で処理されないと、診療報酬請求に空白が生じます。
ステップ7:開設後の諸手続き——法人運営のスタート
税務関係の手続き
- 法人設立届出書:税務署および都道府県税事務所に提出(設立から2か月以内)
- 添付書類:登記簿謄本、定款の写し、設立趣意書、収支予算書
労務関係の手続き
- 社会保険(厚生年金・健康保険):年金事務所で手続き
- 労働保険(労災・雇用保険):労働基準監督署・ハローワークに届出
法人化によって個人事業と条件が異なり、法人としての適用義務が発生します。
医師会への入会
任意ですが、地域医療連携の観点から加入が強く推奨されます。入会には申請書の提出、面談、年会費の納入などが必要です。
その他の実務手続き
- 法人名義での銀行口座開設
- 診療報酬請求業務の委託先(レセプト業者)との契約
- 医療材料の仕入先、電子カルテ・レセコンの保守業者との契約
- 光熱費・電話・水道・ネットなどライフラインの契約を法人名義に変更
- 看板・封筒・名刺・ホームページの法人名への切り替え
医療法人設立を成功させる5つのポイント
1. 逆算思考でスケジュールを組む
希望する開業日から逆算し、いつまでに何を準備すべきかを明確にしましょう。年2回しか申請受付がない自治体では、1回のタイミングを逃すと半年遅れになります。
2. 仮申請の段階で完成度を高める
仮申請で提出した書類は原則として本申請で内容変更ができません。「後で修正すればいい」という考えは通用しないため、最初から高い完成度を目指しましょう。
3. 専門家と二人三脚で進める
医療法人設立は単なる書類作成ではなく、経営ビジョンを形にする作業です。行政書士や税理士など、医療法人に強い専門家のサポートを受けることで、リスクを最小限に抑えられます。
4. 事業計画書を「生きた資料」にする
事業計画書は行政提出用の書類にとどまらず、開業後の法人運営をシミュレーションする重要な設計図です。数字の整合性や実現可能性を重視しましょう。
5. 社員・役員の選定は慎重に
社員や役員は形だけでなく、実質的に責任を持てる人材を選ぶことが重要です。法人運営における意思決定の要となる人材ですから、信頼関係を重視しましょう。
まとめ——医療法人設立は「準備の質」がすべて
医療法人設立は一般企業の設立とは大きく異なり、認可制度に基づく厳格な手続きが必要です。準備から開業まで約10か月〜1年かかることを念頭に、「逆算思考」でスケジュールを組むことが成功の鍵です。
特に重要なのは、仮申請の段階で書類の完成度を高めること。「後で修正すればいい」という考えは通用せず、最初から高い完成度を目指す必要があります。
また、医療法人設立は単なる書類作成ではなく、「どんな医療を提供したいか」「どう地域に貢献したいか」というビジョンを形にする作業です。専門家と二人三脚で進めることで、確実な開業につながります。
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